フィリピン音楽シーンのトップを突き進むFELIP 新曲「Fake Faces」に込めた“自分を愛する”メッセージ

FELIP、自分を愛するメッセージ

 マルチな才能を誇るアーティスト・FELIPは、海外のリスナーも熱い視線を注ぐフィリピンのポップス=P-POPを代表する存在だ。5人組ボーイズグループ・SB19の一員として2018年にデビューを果たし、ほどなくしてスターダムへ。同グループでは2021年の『Billboard Music Awards』のトップソーシャルアーティスト賞にノミネートされるほどの成功を収めながらも、新たな表現方法を求めて同年にソロ活動をスタート。個性派・実力派がひしめく現地のシーンで、臆せずにボーカリスト、ダンサー、プロデューサー、コンポーザーと、様々な面で自分らしさをアピールしている。今に至る道のりをどのような思いで歩んできたのか、ひとりのミュージシャンとして大切にしてきたものは何か——。メディアから尋ねられる機会があまりなかったという、こうした問いに対して、来日中の彼はじっくりと考えながら丁寧に答えてくれた。(まつもとたくお)

フィリピンの音楽シーンで大事にされる「自分がすべてに関わった」というポイント

FELIP(撮影=林将平)

――4月29日に埼玉・ところざわサクラタウンでSB19の来日公演を行いましたが、大勢の観客とともに相当盛り上がったみたいですね。

FELIP:本当にすごかったです。満員に近かったのではないでしょうか。開催する前は、日本に住んでいるフィリピン出身の方々が多いんだろうなと予想していたんですけど、会場には日本人のファンもたくさんきてくれて。しかもフィリピンの言葉で書いている歌詞を覚えて一緒に歌ってくれる、それが何よりも驚きましたし、温かい気持ちにもなりました。グループの曲だけでなく、僕のソロナンバーも反応がよかったので嬉しかったですね。

 
 
 
 
 
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――フィリピン人が曲を書いて、歌い、演奏する音楽を、現地では“OPM”(=Original Pinoy Music/オリジナル ピノイ ミュージック)と呼んでいるそうですが、やはり現地ではオリジナル志向の強いアーティストが多いのでしょうか。

FELIP:そうですね、たしかにオリジナル曲を書く人はたくさんいます。フィリピンのアーティストは創作において自分がすべてに関わったという点を大切にする傾向が強い気がします。

――フィリピンの最新ヒットチャートをチェックしてみると、EDMやバラード、AOR、アコースティックポップなど、想像以上にバラエティに富んでいたのが印象的でした。現地の音楽シーンは多彩なんですね。

FELIP:おっしゃる通り、多彩だと思います。それは音楽だけではなく、人間としても才能の面でも同じことが言えます。フィリピンのアーティストは「自分には限界はないんだ」というところを見せたいタイプの人が多いのではないでしょうか。特定のフィールドにおいて、もしくはすべての方面で自分が輝きたいと願う人が目立っている状況だと思います。

――誠実かつ的確に答えてくださってありがとうございます。正直に言いますと、FELIPさんが無口な人だったらどうしようかと、質問をたくさん準備してきました。どうやら取り越し苦労だったようです(笑)。

FELIP:そんなクールな反応ができるほど、大物ではありませんよ(笑)!

FELIP(撮影=林将平)

――(笑)。2018年にボーイズグループ・SB19のメンバーとしてデビューを果たしたわけですが、所属は韓国のエンターテインメント会社のフィリピン支社ですよね。となると、トレーニングはやはり韓国式だったのでしょうか?

FELIP:そうですね、以前は韓国のマネジメントに所属していましたが、振り付けやソングライティング、プロデューシングなどすべてを自分たちで行ってきたため、韓国のエンターテインメントトレーニングシステムのなかに置かれたとは思いません。所属事務所から学んだのは、アーティストとしてのふるまいや基本的な社会マナーのことが主でした。

――楽曲としてはK-POP的なアプローチを感じさせるものもいくつかありましたが、「GENTO」をリリースした2023年あたりからSB19にしか出せないテイストも感じられるようになったと個人的には思っています。ご自身としてはどう考えていますか?

FELIP:マネジメントの方向性もあって、初期段階ではK-POPの影響を受けましたが、その後独自のサウンドとスタイルを見つけ続けてきました。そして、ついにフィリピン音楽シーンにおける私たちの場所を見つけたと感じています。

SB19 'GENTO' Music Video

――そういったグループの方向性を明確に示したのが「GENTO」だったと言えるでしょうか。

FELIP:そうかもしれませんね。今までメンバー全員で一生懸命頑張ってきたおかげで、ようやくSB19のアイデンティティが見えたかなって実感しています。自分たちで音楽を作っていく気持ちが強いOPMのシーンで、僕らが受け入れられたのは本当に嬉しいですね。

――アイデンティティを追い求める点においては、2021年から始めたソロ活動も同じ方向性だと思いました。初めて個人名義で発表した曲「Palayo」はビサヤ諸島で使われるビサヤ語で歌っています。FELIPさんはその地域のご出身ですよね。

FELIP:はい、僕の母親が生まれ育った場所です。ビサヤ語は私たちの方言です。私は自分のルーツを誇りに思っており、いつも音楽に取り入れています。

FELIP - 'Palayo' Official Music Video

――素晴らしい姿勢だと思います。J-POPの世界には藤井 風というミュージシャンがいますが、彼も自分の出身地である岡山県の方言でありのままの姿を表現しています。FELIPさんと同じ1997年生まれですし、同じ時期に同じ世代のミュージシャンが同じベクトルで創作活動をしているのは興味深いです。

FELIP:藤井 風さんはTikTokで知りました。いつか、彼と共演してみたいですね(笑)。僕が言えるのはひとつだけ――すべての人が自分のルーツに誇りを持つべきだということです。ありのままの自分をためらわずに表現して、それを見聞きした人が「ああいうふうになりたい」と思うようになってくれたらいいな、と。僕が自信を持って活動していく姿やメッセージが、差別を受けたり劣等感を抱いていた人たちにとってポジティブな方向へ向けるきっかけになれば、これ以上の喜びはありません。

理解者がいるからこそ「ためらわずにアピールできる」

FELIP(撮影=林将平)

――「Palayo」に続いてリリースしたEP『COM・PLEX』も充実した内容でした。ここでFELIPさんはダークなトーンのHIPHOPを披露しましたが、かなりマニアックで攻めている音作りでしたよね。かならずしも万人に受けるスタイルではないと思いました。

FELIP:たしかにそうですね。(すべてを)わかってくれるリスナーの数はそれほど多くないかもしれません。でも、何を伝えようとしているのか、どんなメッセージを発信しているのかを理解してくれる人は確実にいると思うんです。そう考えれば考えるほど、ためらわずに音の引き出しの多さやクリエイティブな面をアピールしたくなるんです。

――よくわかります。ひとつの作風に落ち着かないところがFELIPさんのよさだと言えるのではないでしょうか。2023年11月にリリースした「Moving Closer」ではアコースティックギターをバックにソフト&メロウな歌声を響かせていますが、次作「Kanako」ではグランジロックにアプローチしました。こうした方面のサウンドも以前から好んで聴いていたのですか?

FELIP:いろいろなジャンルに挑戦してみたいという思いで曲を作っているのは間違いないです。「Kanako」に関して言いたいことがあるんですが、言ってもいいですか(笑)? この曲は、実は自分に捧げるために書いたものなんですよ。僕が日本のロックをよく聴いているからなのか、いつも好んでやっている楽器の編成が似ているからなのかはわからないけれど、日本のロックバンドが奏でるサウンドに近い仕上がりになったと思います。言葉の響きも日本語に似ていて、フィリピンの言葉で歌っているのに区切り方やアクセントが日本語っぽい。自分でもそこがすごく面白いと思っているんです。

FELIP - 'Moving Closer' (Official Audio)

――「Kanako」はアーティストとしての成長が感じられる作品だと思いました。ちなみにタイトルは日本人女性の名前でしょうか?

FELIP:フィリピンの言葉で、「Kanako」というのは「自分」という意味なんです。実は日本人女性の名前と勘違いされるのも知っていました。日本のファンの方に「あの曲って私の歌ですか?」って尋ねられたことがあります(笑)。もちろんそうではないのですが、ファンのための曲でもあるし、まったく違うとも言い切れません。とにかく「カナコさん」という名前の日本人はラッキーだねって思いました(笑)。

FELIP - 'Kanako' Official Music Video

――「Kanako」のMVでは、多くの女性ファンがFELIPさんに会って大喜びするシーンが印象的でした。涙を流す人もいましたね。

FELIP:そうやって名前を知ってもらえるようになったのは、聴き手にインスピレーションを与えられているからなんだろうなって思うんです。自分に嘘をつかないで、できるだけ自分の気持ちに忠実にやってきた結果でもあるし……。あの曲は応援してくれる人たちへの僕からの贈り物です。さらっとリリースしてプロモーションも一切しなかったけれども、みんなに支えてもらったおかげで長年続けられたことへのお礼のつもりで出しました。

――とても謙虚ですね。

FELIP:ありがとうございます。とにかくできるだけ多くの人に刺激を与えたい、それが僕の夢なんです。自分の両親が僕を誇りに思ってくれるような活動をしていこうということも心掛けています。

FELIP(撮影=林将平)

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