高精細なゲームの開発コストは
  共通エンジンとネットの活用で低減


「『ドラクエ』は低年齢層の開拓を推進
PS3向けタイトル開発に向けた準備も万全」【後編】
──スクウェア・エニックス 代表取締役社長 和田洋一氏

――ただ、ハイビジョン映像を売り物にする次世代機向けゲームの場合、タイトルの開発投資が携帯型ゲーム機やWiiに比べて高額になるという話もあります。これはソフトメーカーにとって足かせにはならないのでしょうか。

和田氏: その問題を解決するポイントは二つあります。まず、一つは作り方そのものを変えるというアプローチ。従来の開発スタイルを変えることで、コストを低減するやり方へのシフトです。

 従来、うちのやり方だとゲームの開発期間がだいたい2年だとしますと、半年から10カ月くらいは基礎エンジンを作っている。それもタイトルごとに。これは無駄ですよね。そこで、うちでは共通の開発ツールやミドルウエアの開発、ライブラリの構築にとりかかったわけです。もちろん、半年分すべてを共通化することはできませんが、3カ月程度は短縮する効果はあるでしょう。たかが3カ月ですが、開発投資の“ぜい肉”を落とす大きな効果が得られます。

 また、先日マイクロソフトさんから『ギアーズ オブ ウォー』(Xbox360)が出ましたよね。このタイトルは全世界で200万本以上のセールスが期待できるキラーコンテンツで、開発は『アンリアルトーナメント』などを作った米Epic Games。ここは他のソフトメーカーに、ハイビジョン映像向けなどの描画系に強いミドルウエア「Unreal Engine 3」を供給しています。うちも、このミドルウエアの採用も決定しました。

編集部注:文中に誤解を招きかねない表現がございましたので、内容を一部修正いたしました。関係者の方々および読者の皆様にお詫びを申し上げます)

 米国ではこうしたツールやライブラリの利用で、開発コストの削減に成功しています。同様のアプローチが日本でも標準になっていくことで、ハイビジョン対応のソフトであっても、開発コストは徐々に低減されていくでしょう。このような形で作り方の方法が変わるというのが問題解決の一つ目のポイントです。

PS3向け大型タイトルとして期待される『ファイナルファンタジーXIII』
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――では、もう一つのポイントは何でしょうか?

和田氏:   それは遊び方がネットを軸に変わることです。PSPやDSなどの携帯型をはじめ、据え置き型の次世代機のすべてがネットにつながるところがポイントになります。つまり、オンライン化です。

 これは何を意味するかと言うと、ソフトの“メディア”がDVDやCD-ROMではなくネットになるということ。ここが大きく違う。この変化によって、ゲームビジネスの稼ぎ方が変わります。

 パッケージソフトの場合は、一定量のプログラムがプレスされたメディアに対して、たった一つの価格しかつけられなかった。ところが、オンラインの場合はそれが柔軟になります。データ量や遊び方に応じて、なめらかに価格が付けられます。そして収益もなめらかに可変して稼ぐことができる。これにより、従来は捨てざるを得なかったチャンスを逃すことなく、グロスの収益を増やすことができます。

――中間決算発表時には現行のオンラインタイトルである『FF XI』は、2〜3割をメディアの販売で稼いで、残りをオンラインでの課金という話でした。

和田氏: それは従来型のオンラインゲームの場合です。こうした現在、我々が運営しているオンラインゲーム以外のものでもネットを使うと、いろいろな収益機会の変化があると思っています。具体的には、ゲーム販売の単位を変えることなどによってですね。

 例えば、懐石料理しか出していなかったお店が、惣菜もやるようになったら収益を得る構造は変わりますよね。あるいはグループ客だけではなく、カウンターで一人のお客様にも料理を出すようにすれば在庫だって減りますよね。

 これはパッケージの流通が、ネットでの通信販売かリアル店舗の購入かという話以上に大きな変化になるでしょう。そういう時代は必ず来る。その証拠に、次世代機はすべて、この機能がありますからね。

――ゲームの流通も、アップルの「iPod」に「iTunesストア」から音楽などをダウンロード購入するような環境になるということですね。

和田氏: PS3やXbox360に、仮に「インディーズチャンネル」というテストプレイができるものがあって、月会費は1000円だとします。

 ここで、一般のゲームファンでプログラムを組む人のソフトも、大手メーカーの開発中のタイトルもテストプレイができるようにすれば、新人クリエーターの発掘のほか、メーカーサイドでは、ユーザーの反応を見ながら製品化の可否もマーケティングできる。その上、会費収入の分配金もあり、これ自体が収益源になりますよね。ネットなら、こんなこともできるわけです。

 ところが、パッケージだったらそうはいかない。5分間のテストプレイを作ってもパッケージに焼いて、包装して、プロモーションを、という手順を踏んだらコスト割れは必至です。だから、これまではやりたくてもできなかった。

 一方、ネットにつながったゲーム機によるソフト流通には、従来のコストや収益の概念を吹き飛ばすポテンシャルがあります。ただ、これもスタートしてから定着するまでには2年程度の時間は必要でしょう。