次世代機でのネット利用で
  新作のヒットと若手のデビューを


――ネットの活用は流通とマーケティングだけではなく、ゲームのプログラムのボリュームにも関係しますから、確かに開発コストとの関係もありますね。

和田氏: それだけではなく、新作のヒットももっと増えるようになりますよ。“パッケージソフトの売れ行きに陰りが”なんて話が出てくるのも、端的に言えば現状の流通ではゲームの中身がわからないからなんです。

 ゲームは数千円もするのに、中身を事前に知ることはできない。特に新作の場合は、「わからない」という不安から購入に二の足を踏む。その結果、シリーズ物ばかりが売れるという流れになっています。これは問題ですよね。

 でも、ネット経由でテストプレイをダウンロードして、“お試し”ができれば、その不安は解消するでしょう。

 「ゲーム離れ」も同じです。例えば、「『FF』のストーリー展開を知りたいが、エンディングまで長時間やるのは厳しいな」と思っているユーザーに対して、場面をスキップしてストーリーがわかる、“やりこみ要素”のない廉価版をネットでリリースすればいいわけです。

 こういう形のソフト販売ができるようになると収益機会が変わってくる。クラシックタイトルもディスクにプレスする必要はありませんから、在庫リスクはなく、販売機会が増します。それにさらなるメリットもあります。

――そのメリットとは何ですか?

和田氏: それは『FF』や『ドラクエ』などを手がけているディレクターやプロデューサーたちよりも、一段若いクリエーターたちがデビューしやすくなることです。

 前出の「インディーズチャンネル」のような場があれば、若手クリエーターがネット経由のタイトルリリースでデビューできる場が広がるでしょう。

 ゲーム産業は比較的若い産業ですので、ビッグタイトルを手がけたクリエーターの多くが、まだ現役で活躍しています。この状況ですと、どうしても若手がどんどんデビューするという具合にはならない。

 加えて、いまのビジネス環境ですと、一般的なタイトルであってもブレークイーブンは数万本というヒットの規模が必要。こうなると20代の若者の「がんばります!」という熱意だけに賭けるのは経営者としては厳しいわけです。でも、ネットを使えば、作り手の厚みも、裾野も広げることができます。

――そうした若手の活用に向けた施策は動き出しているのでしょうか。

和田氏: こうした変化を先取りする観点から、事業部制だった組織を壊して、プロジェクト制に移行しました。そして若手でもプロデューサーになれるチャンスを広げています。

 ただ、今は次世代機が立ち上がる過渡期ですので、多くの若手には移植版で経験を積ませるようにしています。新規でそれなりのタイトルをやろうとすると、2〜3年かかりますが、移植ものは“お手本”があるので、半年から1年で経験を積めますからね。

 そこで力をつけさせて、PS3などの新しい市場が立ち上がったなら、今度はそこをやってもらう考えです。

 任天堂さんのハードでユーザーの裾野を広げる一方、ハイビジョン対応の据え置き型が立ち上がることで、今年の終わりから来年にかけて市場はさらに活発化します。そのときにはマーケティングも変わってくるし、作り手も変わっていきます。2010年くらいにゲーム産業を見てみると、現状とは大きく異なるマーケットになっているのではないかと期待しています。

――いずれパッケージはなくなるんでしょうか。

和田氏: いや、パッケージ自体はなくならないでしょう。iPodとiTunesで音楽を聴く人が増えてもCDはあるわけですし、映画産業も“映画館”に行かなくても、DVDなどのパッケージを購入したり、レンタルしたり、有料放送を見るなどシチュエーションによって使い分けをしています。ゲームも同じではないでしょうか。

 それに、ハイビジョンともなるとデータ量が多いですから、すべてクライアント側へダウンロードするとなると、ちょっと無理がある。

 例えば、最初のステージはネットからのダウンロードでやって、面白かったらWebサイトにあるボタンを押すと通販サイトにつながり、そこでメディアを購入する――という形もあるでしょう。いろいろなやり方、すみ分けがあると思います。

――なるほど。では、従来型のオンラインゲーム分野についてはどのような手を打っていくのですか?

和田氏: 1月に発表しましたが、Windows用の新作MMORPG『コンチェルトゲート』を、NHN Japanが運営するゲームポータルの「ハンゲーム」向けに開発します。この提携は“情報の交換”という意味合いが強いですね。

 今、我々はオンライン分野に関しては二つの課題があります。まず、どういうオンラインタイトルを作るべきか。もう一つは、どういうコミュニティのサポートをしていくかということの模索です。

 本格派オンラインゲームの分野では『FF XI』をやっていますから、多くのノウハウと技術の蓄積があります。しかし、すべてのオンラインタイトルを、あの“こってり”仕様にしてしまったら、コストも手間も大変なことになるでしょう。同様に、うちにあまりノウハウがないカジュアルなイメージのオンラインタイトルを、サービスも含めて新規でゼロから作り上げていくというのも大変です。

 そこで、今回のように他の企業と提携するなどして、プロセスはきちんと検証しながら、徐々にスキルを上げていく考えです。

NHN Japanとの提携で「ハンゲーム」向けに開発する『コンチェルトゲート』
Published by NHN Japan Corporation
Developed by ponsbic
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――今年はどんな年になりそうですか?

和田氏: ゲームマーケット全体としては、引き続き昨年からの好調さを持続しつつ推移するのではないでしょうか。

 一方、うちにとっては刈り取りの年。その対象は2006年に種をまいたもの――具体的には学研とのシリアスゲームでの業務提携や、松下電器産業とのデジタル家電分野での取り組み、そして共通エンジンの開発などですね。ただ、こうしたものはちゃんと育っていれればいいわけで、収支に大きな影響を与えるものではありません。稼ぐのは別のところできちんと稼いでいきます。

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